cactus reviewed 環境倫理学のすすめ【増補新版】 by Hisatake Katō
私達はなぜ環境を守るべきなのか
3 stars
Content warning 環境倫理学のすすめ ネタバレ
「環境倫理学のすすめ」は、「なぜわたしたちは環境を守るべきなのか」という疑問に応えようとする分野である「環境倫理学」について、日本語で書かれた最初の入門書だ。 本書が書かれたのは1991年、インターネットが今ほど広がる前の時代。皆の話題の中心はまだテレビだったころだ。 環境問題に関して言うと、この頃よりも状況は悪化していると思う。海には少なくない数のプラスチックごみが浮き、生物が誤食して、被害をもたらしている。「地球温暖化」はもはや「地球沸騰」と呼ばれる。気候変動は、間違いなく私達を殺しにかかってきている。外に出られないレベルの酷暑、9月に入っても猛暑日が続き、10月に入っても真夏日がチラホラ。毎年日本の何処かで豪雨災害が起き、2024年は地震に見舞われた能登半島で、二重災害となった。 もはや何らかの対策は必須なのだが、その正当性はどこにあるのか。そこに環境倫理学は入り込んでくる。 環境倫理学は、主に3つの主張をしている。 1つ目は、「人間と同様に、自然物も権利を持っており、人間が優越することはない」 2つ目は、「私達は、未来の世代の生存に対して責任がある」 3つ目は、「地球は無限ではなく、有限の資源を持ち、そこで閉じている」
本書は、それぞれの主張について、やや読みにくいものの、詳細な説明をしている。 どの主張も、現在では割と受け入れられているのではないだろうか。特に2つ目の主張は、SDGsで示された考えとも共通する部分がある。 また、本書では、環境倫理学と生命倫理学を比較している部分がある。 環境倫理学は、比較的全体主義的なのに対して、生命倫理学は割と個人の自由を重視しているが、日本に関して言えば、環境倫理学と生命倫理学の間を行ったり来たりしているような感じがある。 このあたりの比較も中々興味深い。
環境問題はもう単なる「趣味」の域を超え、人類全体の生存の問題となりつつある。行動を起こす人、起こしたがらない人、どちらも倫理学の問題を深く考えている人ばかりではないだろう。しかし、がむしゃらに飛び回った後で、「何のためにやってるんだろ。」とふと立ち止まったとき、環境倫理学はそんなあなたのそばに寄り添い、ときには叱咤激励したり、勇気を持って背中を押してくれたりする。 環境倫理学に限らず、学問にはそんな一面もあると思う。